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農薬だけに頼らない生産(循環農学類 農場生態学研究室 園田高広教授)

 農食環境学群循環農学類農場生態学研究室(園田高広教授)では、「農薬だけに頼らない農業技術の確立」をテーマに、主にアスパラガスを対象として、高温耐性、伏せ込み促成栽培、病害抵抗性の観点から品種改良に取り組んでいるほか、それに付随して病気や生態の解明を行っている。

 アスパラガスは雌雄異株の多年草。国内での本格的な栽培は農学博士・下田喜久三により、岩内町で始まった。大正期には冷害に強い品種改良に成功し、北海道におけるアスパラガス栽培の基礎となった。年間収穫量は全国で2万6,500t(2020年)、そのうち北海道は3,640tで13.7%を占め、都道府県別生産量第1位となっている。
 園田高広教授は、前職の福島県庁職員時代からアスパラガスの研究に携わり、2011年に酪農学園大学に赴任。「農場生態学」とはファームエコロジーの日本語訳で、「農薬だけに頼らない農業生産技術の確立」を目標としている。現在の主な研究テーマは、高温耐性、伏せ込み促進栽培、病害抵抗性の3つ。

アスパラガス疫病の病徴

アスパラガスの疫病の発生分布



 北海道におけるアスパラガス栽培は露地栽培が主力で、5~6月が出荷のメイン。近年は、生産の安定性を求めて施設栽培が増加し、出荷時期は3月末~4月に第一のピークを迎え、6月以降も出荷できるようになった。ところが7~8月の暑さで収穫量が落ちてしまう。また、気候変動の影響で夏季の気温が上昇する可能性もある。
 「気温が35℃を超えると収穫減少や曲がり、破裂が起こります。暑さに強い既存品種は、アスパラガスとしてのポテンシャルが低い。そこで高温耐性を持ち、トータルでポテンシャルの高い品種の開発に取り組んでいます」
 伏せ込み促成栽培は、アスパラガスの端境期である冬場の出荷を可能にする作型だ。一年苗養成法の場合、春先に種を蒔いて苗を育て圃場に植える。株を大きくして11月に刈り取り、それをハウスに隙間なく密集し植える。温床線などにより土壌温度を上げると休眠から覚めて成長を始める。これによりクリスマスやお正月の端境期に出荷できるので単価が高く、冬場に使われないハウスを有効活用できる、冬場の雇用につながる。
 アスパラガスの土壌病害でここ数年深刻さを増しているのがアスパラガス疫病だ。感染、発病すると、株元部分が灰白色や赤褐色となり、若茎の場合は穂首が曲がり萎凋症状が見られる。病勢が進むと萌芽しなくなり、株が腐敗する。また、疫病が発生した圃場では、連続した欠株が発生することが多い。
 「北海道には疫病は出ていないと思っていましたが、当大学に赴任して疫病が広まっていることがわかり、大変驚きました。アスパラガスは連作障害が出やすい作物で、その原因が疫病菌であることもわかってきました。疫病対策を確立することで収量減少を食い止めることができます」
 疫病対策はある程度メドが立ったという。物理的防除法、化学的防除法、耕種的防除法の3つを組み合わせた防除を行うのが基本だ。これら3種の防除法に病害抵抗性の高い品種が加われば、安心してアスパラガスを作付けることができる。
 園田教授は、農研機構中央農業研究センターらとともにアスパラガス安定生産コンソーシアムを結成し、「アスパラガス疫病等をはじめとする連作障害総合対策マニュアル」を策定、発行している。
同研究室の大きな成果の一つがムラサキアスパラガスの品種改良だ。新ひだか町の農業生産法人ファームホロからの依頼を受けて共同で研究開発した。ファームホロでは、グリーン・ホワイト・ムラサキの3色のアスパラガスを生産・販売しているが、既存のムラサキ品種は収穫期が遅く、収量が少ない、色合いが美しくない、という難点があった。3色アスパラを高付加価値で販売するには、収量、収穫時期、色味の改善が必要だった。

3色アスパラガス

 ファームホロで生産していた既存品種パシフィックパープルから優れた株を選別し、園田教授が手許に持っていたムラサキ品種と掛け合わせ、選別、交配、栽培、評価を繰り返した。試験栽培で好成績を収めたことから本格栽培を始めた。「RG紫色舞(ムラサキシキブ)ファースト」「RG紫色舞ルーチェ」の2種類があり、「ファースト」は収穫期が早く、グリーンアスパラとほぼ同じ時期に収穫できるのが特徴。「ルーチェ」はやや収穫期が遅いが、太い立派なムラサキアスパラになる。3年前に品種登録申請。種子はパイオニアエコサイエンス(株)から市販されている。
 同研究室が目指すもう一つのテーマは、アスパラガスの通年出荷ができる作型、体系を確立すること。それには環境制御が必要になる。2014年、園田教授が研究代表者を務める「寒地高収益アスパラガス経営研究グループ(酪農学園大学、(株)ソラール、(株)CSソリューション、内山農園、美唄市農協)では、フィールドサーバーシステムと、籾殻を燃料とする温水ボイラーを用いた土中蓄熱暖房システムの開発を組み合わせ、科学的数値に基づく栽培管理技術を融合することで、寒地における高収益施設アスパラガス経営の実証研究を行った。
 「モニタリングにより栽培データが残るので新規就農者にも取り組みやすく、環境制御により安定して出荷できるので、経営も安定します」
 同研究室のゼミ生は3年生7名、4年生7名と留学生が1名。卒業生の就職先は、公務員(農業改良普及員)や農業従事者が多く、農業資材会社や種苗会社にも人材を排出している。

【参考】
「アスパラガス疫病等をはじめとする連作障害総合対策マニュアル」〈https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/129920.html〉 
「寒地における革新的技術を実装した高収益施設アスパラガス経営マニュアル」〈https://rgu-dev.ooda.biz/wp-content/themes/rgu/file/reserch-report_1603.pdf〉

(月刊ISM 2021年7月号掲載)


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