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リハビリ担う動物看護師(獣医保健看護学類 動物理学療法研究室 椿下早絵准教授)

 獣医学群獣医保健看護学類動物理学療法研究室(椿下早絵准教授)では、病気やケガで運動機能に障害が生じた動物のリハビリテーションに取り組んでいる。動物理学療法は、その必要性が認識され始めたばかりだが、伴侶動物の高齢化や獣医学の進展に伴い、将来の発展が期待されている。

 椿下早絵准教授は酪農学園大学獣医学科卒。卒業後は、馬の獣医として働き、その後、他大学での研究生活を経て、6年前から母校で動物理学療法の研究に携わっている。
 ヒトの医療分野では医師・歯科医師・看護師や理学療法士らが国家資格として位置付けられている。一方、動物医療では、獣医師は国会資格、動物看護師も2023年までには第1回の国家試験が行われることになっているが、動物理学療法士については、資格がない。
 「アメリカには大学が認定する動物理学療法士という資格がありますが、日本には教育プログラムもほとんどなく、情報も少ないので、手探りでリハビリに取り組んでいるのが実情です。しかし、手術後の機能回復や、手術適用とならなかった動物の運動機能の回復を図るには、リハビリは欠かせません。伴侶動物も高齢化が進んでおり、今後、需要の増大が見込まれる分野です」(椿下准教授)
  動物理学療法は、徐々にその必要性が認められつつあるものの、リハビリを実践している動物病院は極めて少ないのが実情だ。ペット保険の対象外とされることが多いことや、動物病院内にリハビリに必要な機器をそろえたり、リハビリを行う人材を雇用する必要があるからだ。
 「獣医保健看護学類は動物看護師を育成しています。在学中に動物理学療法の知識や技術を身に着け、就職先の動物病院で理学療法を担う人材として活躍してほしいと願っています。動物病院の獣医師にも『動物看護師が理学療法の知識・技術を備えているなら、ぜひ、診療の現場で活かしてほしい』と言って下さる方が増えています」
 椿下准教授は、馬術部顧問も務めており、馬の治療に当たっている。2年前、脚の骨を粉砕骨折した馬の治療を行った。難しい症例だったが、手術で整復し、数カ月ギプスで固定した後、リハビリに取り組み、歩行機能を回復させた。学会で発表したところ、これまであまり報告されてこなかった救命のための馬のリハビリに大きな反響があった。
 同研究室で扱う症例で多いのは、ミニチュア・ダックスフントなどに多くみられる腰の椎間板ヘルニアだ。椎間板が逸脱して、脊髄を圧迫し、後ろ脚が動かなくなる。 
 「ある日、突然、動かなくなり、初めてその疾患を抱えていたことに飼い主が気づくこともあります」
 症状は3段階に分かれる。軽症の場合、背中に痛みがあり、歩けるものの後ろ脚がややもつれる。治療としては手術をせず、リハビリで機能回復を図る。レーザー治療で痛みを和らげ、人の手で脚を動かすことにより筋力が落ちないようにする。
 中程度の症状としては、後ろ脚を引きずるようになる。この場合、手術をすることが多い。入院中は、筋力が落ちないように脚を動かし、補助をして立たせる。退院後、通院により治療する場合は、ウォータートレッドミルを用いる。これは水中に設置したルームランナーのような機械で、浮力を使って体重の負荷を減らし、立ち位置を維持しながら歩かせる。

ウォータートレッドミル

 重症になると、痛みを感じなくなり、後ろ脚が全く動かくなる。手術をしても完全な機能回復は難しいが、リハビリを継続することによって少しでも生活の質を良くすることを目標にしている。
 伴侶動物のリハビリでは、飼い主のモチベーションが鍵を握ることが多い。
 「退院後は週に一回程度通院していただきますが、ご自宅でのリハビリがとても大切です。来院時にどのように取り組んで来たかを確認し、改善すべきところは改善してもらい、出来ているところは褒める。機能の回復が見られたら、『ご自宅でのリハビリの成果が出ていますね』と話し、飼い主のモチベーションを上げて行きます」
 椿下准教授が将来取り組みたいと思っているのが、今後課題となりそうな高齢犬の終末期ケアだ。
 「寝たきりになって通院できなくなったとき、現状では往診もできず、電話でアドバイスをすることくらいしかできません。終末期こそケアが必要だし、飼い主も助けてほしい時期だと思いますが、十分なサポートができないもどかしさがあります。将来、動物の医療においても訪問看護のシステムが整えば、動物も飼い主も穏やかな最期を迎えることができると思います」



 同研究室のゼミ生は、3年生・4年生各8名ずつの計16名。3年生は座学、4年生は実習が中心となる。卒業後は動物看護師として動物病院に就職する学生が多いが、ペット用品メーカーなど企業に就職する学生もいる。
 「動物理学療法の知識・技術を身に着けた卒業生が、動物診療の現場でバリバリ活躍してくれることを願っています」

(月刊ISM 2020年8月号掲載)


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