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農場で実践、研究室で理論(循環農学類 家畜繁殖学研究室 堂地修教授)

 農食環境学群循環農学類の家畜繁殖学研究室(堂地修教授)は、酪農・畜産後継者の育成、人工授精師の養成を使命とし、優れた能力を持つ乳牛・肉牛を繁殖・育成するための研究を行っている。その礎になっているのが酪農学園フィールド研究センター肉畜ステーション肉牛牧場、通称・元野幌農場だ。堂地教授は「元野幌農場は新しい農業・畜産に対応するために大きな教育効果を発揮しています」と語る。

家畜繁殖学研究室 堂地 修 教授

 家畜繁殖学研究室の初代教授は、小山邦武氏(1958~69年)。2代目・平尾和義氏(69~98年)、3代目・小山久一氏(75~2013年)と引き継がれ、堂地教授は4代目(98~)となる。
 主な研究テーマは、牛の人工授精、受精卵移植の受胎率向上、体外受精技術、雌雄産み分け技術、乳牛・肉牛の繁殖管理、肉牛の哺育・育成技術、牛の肥育技術など多岐にわたる。
 堂地教授は、同研究室を卒業し、農林水産省で16年間、主に優秀な種雄牛を作り出すための後代検定に携わった後、1998年に酪農学部酪農学科助教授として採用。2005年に教授に就任した。同研究室で最初に取り組んだのは、乳牛の繁殖管理だった。
 当時、分娩後の乳牛の中に2度目の受胎率が低い牛が増えていた。国の育種改良事業の効果で能力の高い(乳量の多い)牛が多くなっていたが、分娩前後に餌の量が極端に落ちる。乳量は分娩後4週間ほどでピークに達するが、食べる量が回復せず、それが繁殖に悪影響を与えていた。
 「乳量は多いのに餌の量が少ないので痩せてしまい、卵巣や子宮の機能回復が遅れるのです。特に若い牛は、身体が大きくなる途中ですから、まず自分の身体を維持し、次に乳を出さなければならず、妊娠のためのエネルギーが足りなくなるんです」
 理想的には分娩後90~100日、遅くても130日くらいで受胎できれば、経済的にもペイするが、150日~170日と遅くなると、搾乳できる期間が短くなる。乳を出さない期間が長くなるほど今度は逆に太りすぎてしまい、その状態で妊娠・分娩を迎えると、産後の肥立ちがさらに悪くなり、負のスパイラルに陥ってしまう。
 対策としては、「第一に、特に分娩前に餌を十分に食べられる環境を作ること」という。個々の牛の健康状態や行動、社会性などを読みながら管理し、それぞれに適した餌と量を与える。
 また、同じ乳量でも次の受胎が早い牛と遅い牛がいる。遺伝的能力の差があるからだ。
 「順調に繁殖するための牛管理の方法や、能力の高い牛を増やすための繁殖の指標を、データに基づいて示していくことが大学の大きな役割の一つです」
 と堂地教授は言う。管理技術を提案するには、実際にやってみて結果を出していく必要がある。その実践の場が元野幌農場だ。元野幌には酪農学園が所有する農地が100haあり、そのうち45haが肉牛農場。ほかに乳牛用の牧草地と豚や鶏の畜舎がある。
 肉牛農家は、親牛に仔牛を産ませて出荷する生産農家、仔牛を市場から買い育てて出荷する肥育農家、繁殖も肥育も行う一貫経営の3つに分かれる。元野幌農場では、これらをすべて行っており、一部は仔牛で市場に出荷、一部は肥育して出荷、一部は繁殖素牛として残す。大型機械を使う牧草収穫などは学園職員が行っているが、牛管理のほとんどは学生が行っている。2008年にスタートした肉牛農場では、さまざまなデータを蓄積し、牛の繁殖や肥育方法の研究、肉質の向上に活かしている。堂地教授は「日本の農業の未来のためには高等教育を受けた農家が必要。将来、地域のリーダーとして経営も技術もしっかりとした酪農・畜産の担い手を育てる。元野幌農場は新しい農業・畜産に対応するために大きな教育効果を発揮しています」と語る。
 元野幌農場の運営は、家畜繁殖学研究室と動物生殖工学研究室(今井敬教授)、家畜生産改良学研究室(西寒水将講師)の3つの研究室が共同で行っている。学生はキャンパスと農場を往来し、実践で学んだことを研究室で理論付けるという作業を繰り返す。
 「農場の一番の目的は、学生が育てた仔牛や肉牛がどういう農家や2次産業に買われ、消費者に渡っていくのかを知り、それぞれの評価を知ることができるということです。仔牛を買ってくれた農家には、肥育し出荷したときの出荷成績や枝肉成績のデータを提供してもらっています。肥育で出荷したときは直接枝肉成績を得ることができます」
 元野幌農場で育てた肉牛は市場で高い評価を得ている。2018年10月に出荷したメスの「ゆり29」は、出荷日齢324日、出荷体重314㎏で119万7,720円の値を付けた。この日の市場平均価格は73万5,165円。差額は46万2,555円に上る。

「ゆり29」

 また、共進会でも好成績を収めており、2012年度北海道肉用牛共進会では「ゆう21」が経産牛48カ月未満の1等賞1席、2015年度の同共進会では、「いちご23」が1等賞2席に輝いている。共進会活動は、地域の生産者との交流、生産計画の設計(交配、繁殖、育成)を学ぶ、コンディションづくりを覚える、調教を通して行動を学ぶ、良い牛と欠点のある牛を知る、第三者の評価を受ける、大学の広報といった狙いがある。

「いくこ25」と学生たち

 「金銭的価値を含めた評価・格付けがどのようになされて最終的に消費者にとどけられるか、その過程を見られることが大事です。将来就農したときに自分の商品の行先をイメージでき、その評価に対して科学的な説明もできます。農場での実践は充実した酪農学園らしい教育の礎です」

(月刊ISM 2020年1月号掲載)


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